①膵癌の疫学的事項
2017年の膵癌による日本での死亡者数は約34000人。日本のがん死亡原因の第4位。
②切除可能境界膵癌とは?
NCCNガイドラインでは2006年頃から切除可能性が分類されていた。日本では、2016年の膵癌取扱い規約第7版から、はじめて切除可能性分類が登場。
最新(2019)の日本の膵癌診療ガイドラインでも、またNCCNガイドライン(2021)でも、BR膵癌に対しては、手術先行ではなく、術前治療を行ったのちに治癒切除可能かの再判断を行うことが推奨されている。
③レジメンは?
術前治療の臨床試験でBR膵癌のみを対象としたものは少ない⇒レジメンや至適治療期間はいまだに定まっていない。
prospective studyとしては、2018年に韓国からRCTの結果が報告された。術前治療レジメンはGEM+RT54Gyによる放射線化学療法。58例が登録され、術前治療(neoadjuvant therapy:NAT)と手術先行(upfront surgery:US)にランダムに割り付けられた。主要評価項目である2年生存率は、US群26.1%(MST12か月)に対してNAT群40.7%(MST 21か月)と、NATの有効性(ハザード比1.97, 95%CI 1.07-3.62, p=0.028)が示された。
その後、日本から、R/BR-PV膵癌に対するGEM+S-1によるNATの有効性を検討したRCT(Prep-02/JSAP-05試験)の結果が報告された。2年生存率はNAT 63.7%、US 52.8%で、ハザード比0.73とNATの有用性が示された。しかし本試験の登録症例はR膵癌が多く、BR-PVは約17%のみであった。BR-PV膵癌の層別解析ではNATの予後が良好である傾向が示されているものの、そのままエビデンスとするには、検討を要する。
2020年にはオランダから、R/BR膵癌を対象として、術前放射線化学療法(GEM+RT)の意義を検討するRCT(PREOPANC試験)の結果が発表された。MSTは術前治療群で16.0か月、US群で14.3か月で、ハザード比0.78(95%CI 0.58-1.05)、p=0.096と予後に有意差を認めず、negative studyとなった。しかしBR膵癌のサブグループ解析では、MSTが術前治療群17.6か月、US群13.2か月で、ハザード比0.62(95%CI 0.40-0.95)、p=0.029と術前放射線化学療法の有用性を示唆する所見となった。
同2020年に日本から、BR膵癌に対してS-1+RT54GyによるNATを行ったシングルアームの試験(JASPAC05試験)の結果が報告された。52例が登録され、50例(96%)で術前治療が完遂され、R0切除52%、MST26か月であり、本治療の有効性が示唆された。
④結局、レジメンは?
上記の流れに基づき、現在BR膵癌に対するNATの前向き試験が複数進行中。ということは、本当にまだ定まっていないと。。